大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和22年(れ)82号 判決 1947年11月26日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人原秀男の上告趣意書は原審判決は其の理由第二として被告人は昭和二十二年三月十日午後一時頃呉市苑地町一丁目百三番地水口熊次郎方に到ったところ同人二男隆嘉(當十二年)及び三男能親(當十年)が留守居をしてゐたので同人等を外出させようとして電灯會社に行くようにいゝつけたが三男能親が居殘って外出しないので寧ろ同人の自由を奪った上金員を強取しようと思付き同人に對し矢庭に頭から同家在合せの毛布をかぶせかけ在合せの白帶で其上を縛った上「静かにせよ聲を出したら毆るぞ」と申向け同家押入の中に押込んで其の反抗を抑壓した上同所箪笥内にあった熊次郎所有の女用反物一匹衣類八點と長靴一足を強取したと判示して刑法第二百三十六條第一項を適用してゐる。惟ふに強盜罪が成立する爲には被害者の反抗を抑壓するに足る暴行又は脅迫が無ければならない。而して本件の被害者は僅かに十歳の小兒であって反抗するに足る意思能力を持ってゐたとは考へられない。反抗する能力の無い者に對して「反抗を抑壓して強取した」と判示した原審判決は理由に齟齬があるから破毀せられるべきものであると思料する。といふのであるが

およそ強盜罪の成立には目的を遂行するに障碍となる者に對してその反抗を抑壓するに足る暴行を加へるといふことで十分であって論旨にいふやうに暴行を受けるものが十分の意思能力を持ってゐることは必要ではない。本件被害者水口熊次郎の三男能親も既に當十歳と云へば完全な意思能力はないまでも或程度物に對する管理の実力は持ってゐるといふべきであって同人が本件犯行の現場に居合せたことは被告人が同家の物を盜むといふ目的を遂行するのに障碍となったことは疑のないところである。よって右能親に對して原判示のやうな暴行を加へて同家の物を盜んだ被告人の所爲を以て強盜の罪にあたると判斷した原判決はまことに正當であって論旨は理由がない。

以上の理由により刑事訴訟法第四百四十六條に從ひ主文の如く判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見に依るものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例